LESSON1 部下が頼りない……「任せる不安」を解消しよう

部下の失敗を恐れなくていい

かつての私は典型的な「任せられないリーダー」でした。前職のリクルートで駆け出しの営業マネジャーだった頃は、仕事を任せるどころか、先頭を切って一人で猛烈に働き、メンバーにも同じことを求めていました。その結果、部下から「周りを見てください。誰も楽しそうに仕事をしていませんよ」と苦言を呈されてしまったのです。

その後の反省から、数多くの優れたリーダーを観察し、共通するセオリーを見出しました。実は、能力が高い人やキャリアが長い人ほど、部下に仕事を任せられない傾向があるのです。

リーダーが仕事を任せられないと感じる理由は大きく3つあります。

第1の理由は、失敗を回避したいからです。「部下に任せると上手くいかないかもしれない」という不安を感じたことはありませんか。責任感が強い人ほど、部下が失敗して誰かに迷惑をかけたり、チームや自分の足を引っ張ったりすることを心配してしまうのです。

「失敗への不安」を解消することが、任せるための第一歩です。部下にとっては失敗も貴重な経験の一つ。いくら言葉で教えても、実際にやってみることで得られる学びには敵いません。むしろ、失敗もさせたほうがよいのです。

ただし、やみくもに丸投げして失敗させろというわけではありません。まずは「ミス」と「失敗」を分けて考えましょう。そして、致命的な失敗を回避するためにリスクマネジメントをするのです。

具体的には、想定されるリスクを洗い出し、それぞれの発生確率と影響の大きさ(挽回可能なミスなのか、取り返しのつかない失敗なのか)を評価します。そして、予防策と、発生した場合の事後対処法を考えておきます。

たとえば、あなたが担当している大口顧客を部下に引き継ぐ場合、「短期的に売り上げが落ちる」というリスクがあります。発生確率は5段階で4、影響の大きさは2とします。この数字はあくまであなたの主観で構いません。発生確率が高いのなら、予防策を立てます。詳しい引き継ぎ資料、補助ツールを作るなどの方法が考えられます。

「担当を変えてほしいとお客様に言われる」というリスクもあります。発生確率としては1だとしても、影響の大きさは4。事後対処法として、先輩とのペア制にするなどということをあらかじめ考えておくとよいでしょう。

このように、任せる前にリスクの大きさと対処法を整理しておくと、漠然とした不安がなくなり、「任せてみよう」と決断することができるのです。

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